荻観光わらび園の気象観測

1.はじめに

 荻観光わらび園は、山形県南陽市の標高720m に位置するわらび園です。良質なわらびが採取できるほか、山々の絶景が楽しめることから「天空のわらび園」として知られています。
 令和5年は、5月10日に開園しました。わらびの生育が良くお客様に喜んでいただけました。翌日の5月11日に市内の果樹園や野菜畑に遅霜が降り、標高が高いわらび園はもっと大きな凍霜害が出たと言った風評が広がりました。実際は、斜面温暖帯の効果でわらび園の凍霜害は軽微なものでした。
 しかし、開園2回目の5月14日は、数日前からの低温の影響で、わらびの生育が悪く、お客様の期待に応えられない結果となりました。 わらびは、最低気温が5℃以下になると生育が停止すると言われています。今後は、低温によるわらびの生育不良を予測し、できるだけSNS やホームページで事前にお客様にお知らせしたいと考えています。そのために気象情報に注目し、また、気温は独自に観測をはじめました。

2.アメダス情報の活用

 荻観光わらび園に最も近いアメダス観測点は、長井市のアメダスです。長井アメダスの標高は230mで、荻観光わらび園との標高差は490mです。距離は、17Km 離れています。
 気温は、概ね標高差を反映しますが、風がなく晴天で放射冷却が起きる朝は、標高が高いわらび園の方が気温が高いことがわかっています。つまり、荻観光わらび園は、凍霜害が起きにくいということです。
 わらび園シーズン中の荻観光わらび園の降水量は、長井アメダスと大きな差異はありません。詳しくは、「8.荻観光わらび園付近の令和5年日ごと降水量」を参照ください。

3.農研機構メッシュ農業気象データの活用

 農研機構メッシュ農業気象データは、気象情報が農業現場で有効に活用されることを目指して、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構が開発・運用する気象データサービスです。農業分野や他の分野における研究・開発・教育・試用を目的として無料で利用できます。
 全国の日別気象データは、約1Km四方(基準地域メッシュ)を単位にオンデマンドで提供されます。
 解析雨量は、レーダーによる観測をアメダスや他機関の雨量計による観測で補正して、面的に隙間のない、より正確な雨量分布が提供されます。

4.独自の気温観測機器を荻観光わらび園付近に設置

 長井アメダスや農研機構メッシュ農業気象データから、概ね標高差を反映した気温がわかりますが、風がなく晴天で放射冷却が起きる朝の斜面温暖帯の発生を把握するためには、独自に気温を観測することが必要です。
 農業気象の遠隔観測装置は、近年は手頃な価格になったとは言え、試験的に設置するには、まだハードルが高いものです。
 そこで、安価なBluetooth接続の家庭用温湿度計を評価したところ、十分な測定精度があることがわかりました。プラスチックの植木鉢を2重にして、通気性を持たせた筒状の容器に入れ、直射日光が当たらないよう工夫しました。これを地面から1m以上の距離を確保して設置し、さらに風通しのよい屋根を設けています。
 設置場所に行かなくても遠隔で観測結果を読み取れるよう、Wi-Fi モバイルルータ(LTE 回線)と Wi-Fi Bluetooth ハブを設置し、電源はソーラーパネルと蓄電池で確保しています。常時クラウド接続により、気温が設定値よりも下がると、スマホにアラートが届きます。
 設置場所は、荻観光わらび園から数百m離れた標高700mの地点で、令和5年7月から観測をはじめました。この場所の気温は、農研機構メッシュ農業気象データから荻観光わらび園よりも約0.2℃高い(標高差)となっています。

5.荻観光わらび園の5月の過去5年間の最低気温・平均気温農研機構メッシュ農業気象データから作成したもので観測値ではない)
 令和5年5月上旬は、気温が低い日が続き、わらびの生育が悪かったことがわかります。

6.長井アメダスと農研機構荻観光わらび園付近の日ごと気温(2023年1月1日~2023年12月31日
 わらびは、平均気温が10℃以上になると萌芽し、地温(10~15センチの深さの温度)が10℃で伸びはじめ、15℃以上になると急に伸長すると言われています。芽の成長は、気温が20~25℃ぐらいが最もよく伸長しますが、急に寒さがきて、最低気温が5℃以下になると生育が停止するとされています。

 荻観光わらび園付近の気温を観測することによって、開園日の予測や開園後の生育不良を予測して、お客様にきめ細かいご案内ができるようにしたいと考えています。

7.荻観光わらび園付近の観測気温と長井アメダスおよび農研機構メッシュ農業気象データの比較

.荻観光わらび園付近の令和5年 日ごと降水量農研機構メッシュ農業気象データから作成したもので観測値ではない)
 令和5年のわらび園シーズンの降水量は、長井アメダスとほぼ同じで、7月~12月の降水量は、長井アメダスよりも少ないことがわかります。わらびの生育には、気温とともに雨量が重要です。(経験的に雨が降って、気温が上がると、よく生育する)